「陽虚タイプ」~身体のエネルギーを生み出す力が低下している状態とは~
前回は、「陰虚タイプ」についてお話ししました。
陰虚は「ホルモンを作る力」が不足している状態でしたが、今回ご紹介する陽虚タイプは、それ以前の問題として**「身体を動かすエネルギーそのものが不足している状態」**です。
東洋医学では陽は「温める力」「動かす力」を意味します。
現代医学的に考えると、私は陽虚を**「代謝エンジンの出力が低下した状態」**として捉えています。
妊娠は多くのエネルギーを必要とする生命活動です。
身体が十分なエネルギーを作れない状態では、生殖機能よりも生命維持が優先されるため、排卵やホルモン分泌にも影響が現れます。
陽虚タイプの特徴
陽虚タイプの方には、次のような症状がよくみられます。
・冷え性
・低体温
・朝起きるのがつらい
・疲れやすい
・むくみやすい
・食後に眠くなる
・便秘傾向
・基礎体温が全体的に低い
これらは、「身体を温める力」が弱くなっているサインです。
血液データから考える陽虚
当院では、陽虚を考える際に甲状腺機能も重要な指標としてみています。
例えば、
・TSHがやや高い
・FT3が低め
・FT4が正常範囲でも下寄り
・中性脂肪が極端に低い
・総コレステロールが低い
といった所見がみられることがあります。
もちろん、血液検査だけで判断するのではなく、症状や体質と合わせて総合的に評価します。
甲状腺は「代謝エンジン」
甲状腺ホルモンには、
・体温を維持する
・ATPを作る
・酸素を利用する
・細胞の代謝を高める
という重要な働きがあります。
つまり、甲状腺ホルモンが十分に働かないと、身体は「省エネモード」になってしまいます。
この状態では、卵胞を育てることや、黄体ホルモンを十分に分泌することにも影響が及ぶ可能性があります。
糖質不足が代謝を下げることも
当院では、陽虚の背景に糖質不足が隠れているケースをよく経験します。
糖質というと「太るもの」というイメージがありますが、実際には身体にとって最も効率よくATPを作るためのエネルギー源です。
糖質が不足すると、
・肝臓のグリコーゲンが減る
・血糖値を維持するために副腎が働き続ける
・ストレスホルモンの分泌が増える
・甲状腺ホルモンの働きが低下する
という悪循環に入りやすくなります。
その結果、身体は代謝を落とし、エネルギー消費を抑えようとします。
これが東洋医学でいう陽虚の状態と重なる部分があると考えています。
陽虚と副腎の関係
血糖値を維持するために副腎が長期間働き続けると、身体は常に緊張状態になります。
初期には交感神経が優位になりますが、それが続くと徐々に疲弊し、身体を温める力や回復力が低下していきます。
このような状態では、
・慢性的な倦怠感
・冷え
・低血圧
・めまい
などの症状を伴うこともあります。
当院では、副腎への負担を減らすことも陽虚改善の重要なポイントと考えています。
東洋医学では「脾」と「腎」が重要
陽虚タイプでは、
脾腎陽虚
という状態になることが少なくありません。
脾は食べたものからエネルギーを作る働き、
腎は生命エネルギーを蓄える働きと考えられています。
つまり、
「作る力」と「蓄える力」の両方が弱くなっている状態です。
このため、食事量を増やすだけでは改善せず、消化吸収や代謝機能そのものを整えることが大切になります。
当院で大切にしていること
陽虚タイプでは、まず身体が安心してエネルギーを作れる環境を整えていきます。
具体的には、
・十分なエネルギー摂取
・糖質を極端に制限しない
・たんぱく質を適切に摂る
・ビタミンB群や鉄、マグネシウムなどATP産生に必要な栄養素を補う
・腸内環境を整え、栄養を吸収できる身体にする
・鍼灸で自律神経や血流を整え、代謝機能をサポートする
こうした土台づくりが、甲状腺や卵巣が本来の働きを取り戻すきっかけになると考えています。
次回予告
次回は、「脾虚タイプ」について解説します。
妊活において見落とされやすい「腸」と「消化吸収」の重要性、そして脾虚がどのように陰虚や瘀血につながっていくのかを詳しくお伝えします。
