日本人に糖質制限・ケトジェニック食は合う?日本人の代謝から考える

近年、

「糖質を減らして脂質をエネルギーにしよう」
「ケトン体を使える身体にしよう」
「人間は本来、糖質を摂らなくても生きていける」

といった考え方を耳にすることが増えました。

実際、糖質を大きく減らせば身体は脂肪酸の利用を増やし、肝臓ではケトン体の産生も増加します。

これは人間に備わった正常な代謝機能です。

そのため、

「糖質を減らすことはすべて間違い」

ということではありません。

糖尿病や肥満など、一定の条件では低糖質食が血糖管理や体重減少に役立つこともあります。

一方、当院の臨床では、

「日本人に欧米型の高脂質・低糖質食をそのまま当てはめてよいのだろうか?」

という疑問を持っています。

今回は、日本人・東アジア人の代謝の特徴から考えてみます。

目次

日本人はケトン体を使えない?

まず、ここは明確にしておきたいところです。

現時点で、

「日本人は欧米人よりケトン体を利用する能力が低い」

と断定できる十分な研究はありません。

日本人にも、

脂肪酸を利用する
肝臓でケトン体を作る
ケトン体をエネルギーとして利用する

という代謝機能があります。

糖質摂取量を減らせば、脂質利用が増加する代謝適応も起こります。

ですから、

「日本人だからケトジェニック食ができない」

という説明は適切ではありません。

しかし、

「ケトン体を作れる」ことと「長期間の高脂質・低糖質食がその人にとって最適である」ことは別問題です。

ここが重要です。

日本人と欧米人では糖代謝の特徴が少し違う

日本人を含む東アジア人の糖尿病には、欧米人とは少し異なる特徴があることが知られています。

欧米では、肥満によって強いインスリン抵抗性が生じ、それを補うために膵臓から大量のインスリンを分泌し、やがてβ細胞が対応できなくなるというパターンがよくみられます。

一方、東アジア人では、

比較的BMIが低い段階から2型糖尿病を発症する人が少なくありません。

その背景の一つとして研究されているのが、

β細胞のインスリン分泌能力の違い

です。

東アジア人では、インスリン抵抗性がそれほど強くない段階でも、それを補うだけのインスリン分泌を維持できなくなるケースがあると考えられています。

つまり、

欧米人と日本人では「血糖値が上がるまでの道筋」が必ずしも同じではない

ということです。

「太っていないから代謝は大丈夫」とも限らない

もう一つ重要なのが、

内臓脂肪

です。

東アジア人では、同じBMIで比較した場合でも、欧米人とは体脂肪率や脂肪の蓄積部位が異なることがあります。

そのため、

BMIは正常
見た目も太っていない

という人でも、

内臓脂肪
肝臓への脂肪蓄積
インスリン感受性

などに問題を抱えていることがあります。

これは日本人の栄養を考えるうえで、とても重要だと思います。

「太っていないから脂質はいくら摂っても大丈夫」

とは言えないからです。

脂質は「食べる」と「使う」で違う

ここも誤解されやすいところです。

脂肪酸をエネルギーとして利用できることと、

大量の脂質を食べても問題なく処理できること

は同じではありません。

食事から摂った脂質は、

胃
↓
十二指腸
↓
胆汁
↓
膵液
↓
小腸
↓
吸収
↓
リンパ・血液
↓
各組織

という流れで処理されます。

そのため脂質を利用するには、

胆嚢からの胆汁排出
膵臓からの消化酵素
腸での吸収
肝臓での脂質代謝

など、複数の機能が関係します。

単純に、

「脂質を食べれば脂質代謝が上がる」

というわけではありません。

「胃が弱い」と感じている人をどう見るか

当院では、

「昔から胃が弱い」
「肉を食べるともたれる」
「脂っこいものを食べると気持ち悪い」
「揚げ物を食べると次の日まで残る」

という方をよくみます。

本人は、

「胃が弱い」

と表現していることが多いのですが、脂質の消化には胃だけではなく、

胆汁
胆嚢
膵臓
小腸
肝臓

まで関係しています。

さらに自律神経は、

胃腸運動
胃排出
消化液分泌

などにも関係します。

そのため、

「胃が弱い=胃だけの問題」

とは限りません。

当院では症状だけでなく、腹部の状態、むくみ、便通、食後の反応、食生活、血液検査なども組み合わせながら身体全体を考えます。

血液検査も「正常か異常か」だけでは見ない

例えば肝臓についても、

AST
ALT
γ-GTP

が基準範囲内だから、

「肝臓の代謝には何の問題もない」

と単純には考えません。

もちろん、血液検査から独自に肝疾患を診断するという意味ではありません。

当院で見ているのは、

病気の診断と、現在の代謝状態を考えることは少し違う

ということです。

例えば、

AST・ALT
γ-GTP
ChE
アルブミン
総蛋白
中性脂肪
血糖
HbA1c
BUN
クレアチニン
鉄関連

などを、食生活や症状と組み合わせて見ていきます。

さらに、

炎症
脱水
食事量
筋肉量
薬剤
運動

などによって検査値が「マスキング」されていないかも考えます。

一つの数字から、

「タンパク質不足」
「ビタミン不足」
「肝機能低下」

と決めるのではなく、

複数の情報から仮説を作る

という考え方です。

アルブミンが低いからプロテイン、とは考えない

例えばアルブミン。

アルブミンはタンパク質ですが、

肝臓で作られるタンパク質

です。

そのためアルブミンが低いからといって、

「タンパク質を食べていない」
↓
「プロテインを飲みましょう」

と単純には考えません。

肝臓での合成
炎症
消化吸収
腎臓や消化管からの喪失
体液量

なども考える必要があります。

さらに、もともと胃腸が弱く食事量が少ない方に大量のプロテインを追加すれば、消化器症状が強くなる場合もあります。

当院では、

「何が不足しているか」だけではなく「なぜ利用できていないのか」

を見ることを大切にしています。

日本人は昔から何を食べてきたのか

ここで日本の食文化を見てみます。

日本では長い間、

米
麦
いも
豆
魚
野菜
海藻

などを中心とした食生活が続いてきました。

もちろん時代や地域によって大きな違いがあります。

肉もまったく食べていなかったわけではありません。

しかし現在のように、

大量の肉
バター
生クリーム
チーズ
大量の油脂

を毎日摂取する食生活が、日本全体で長期間続いてきたわけではありません。

だからといって、

「日本人は遺伝的に脂質を消化できない」

とまでは言えません。

ただ、

日本人にとって高脂質食が長期的に最適なのかは、もっと研究される必要がある

と思います。

日本人を対象にした研究がまだ足りない

栄養学の難しいところは、

欧米で行われた研究結果が、そのまま日本人にも当てはまるとは限らない

ことです。

遺伝的背景
体格
筋肉量
インスリン分泌能力
腸内細菌
食文化
普段の脂質摂取量
生活習慣

などが違うからです。

特にケトジェニック食や極端な低糖質・高脂質食について、

日本人を対象として長期間追跡した質の高い研究はまだ十分とは言えません。

そのため、

「海外で結果が出ているから日本人にも最適」

と考えるのは少し早いと思います。

糖質制限で調子が良くなる人もいる

一方で、

糖質制限そのものを否定する必要もありません。

それまで、

清涼飲料水
菓子パン
お菓子
砂糖入りコーヒー
夜食

などから大量の精製糖を摂っていた人が「糖質制限」を始めれば、

体重が減る
血糖値が改善する
中性脂肪が下がる
食後の眠気が減る

ことがあります。

これは十分考えられます。

ただし、その効果が、

「米を食べなくなったから」

なのか、

それとも、

「精製糖や超加工食品を減らしたから」

なのかは分けて考える必要があります。

ここは非常に重要です。

「糖質制限」と「精製糖を減らす」は違う

当院では、

砂糖
果糖ブドウ糖液糖
甘い飲料
菓子類

を減らすことと、

ご飯
いも
豆
果物

まで大きく減らすことは別だと考えています。

例えば、

朝:パンと甘いコーヒー
昼:菓子パン
間食:お菓子
夜:麺類
飲み物:清涼飲料水

という食生活から、

ご飯
味噌汁
魚
卵
豆腐
野菜

という食生活に変える。

糖質をゼロにしなくても、代謝に与える影響は大きく変わります。

日本人に必要なのは「糖か脂か」という二択ではない

人間の身体は、

糖
脂肪酸
ケトン体
アミノ酸

などを状況に応じて利用できます。

重要なのは、

どれか一つだけを使える身体を作ることではありません。

糖質を食べたら糖を利用する。

食間や睡眠中には脂肪酸も利用する。

必要に応じてケトン体も作る。

このように、

状況に応じてエネルギー源を切り替えられること

が重要です。

これを「代謝の柔軟性(metabolic flexibility)」という考え方で捉えることができます。

当院が目指しているのは「代謝の柔軟性」

糖質を食べると調子が悪い。

脂質を食べるともたれる。

空腹になると動けない。

食後に強烈に眠くなる。

こうした状態では、

単純に、

「糖質を減らしましょう」
「脂質を増やしましょう」

ではなく、

なぜエネルギーをうまく利用できていないのか

を見る必要があります。

肝臓
腸
胆汁
筋肉
自律神経
睡眠
ストレス
食事量
ビタミン・ミネラル

などを総合的に考えます。

そして、

糖も脂質も必要に応じて利用できる身体を作っていく。

これが当院で考えている体質改善の一つです。

まとめ

日本人がケトン体を利用できないという十分な証拠はありません。

したがって、

「日本人はケトジェニック食ができない」

と断定することはできません。

一方で、

「人間はケトン体を作れるのだから、高脂質・低糖質食が日本人にも最適」

とも言えません。

日本人を含む東アジア人には、

インスリン分泌能力
内臓脂肪の蓄積
糖尿病を発症するBMI

などに欧米人とは異なる特徴があります。

さらに日本には、

米、魚、大豆、野菜、海藻などを組み合わせてきた長い食文化があります。

だから当院では、

糖質か脂質か、

という二択では考えません。

精製糖は減らす。
ご飯など食品からの糖質は適切に摂る。
脂質も必要量を摂る。
魚、肉、卵、大豆製品からタンパク質を摂る。
野菜、海藻、きのこなどから食物繊維やミネラルを摂る。

そして、

糖も脂質も、そのときの身体の状況に応じて使える状態を目指す。

極端な食事法に身体を合わせるのではなく、

その人の身体が今、何をどの程度処理できるのかを見る。

日本人の栄養を考えるうえでは、この視点がとても大切なのではないかと考えています。

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